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2話 神降臨

작가: 蒼良 美月
last update 게시일: 2026-05-10 18:50:24

夢にまで見た日がついに目の前に建っている。門に掛けられている看板に頬ずりしながら撫でる。

「御神様~~あ~~ん素敵!」

 周りの人に変な目で見られようが関係ない。そんなことはもう慣れっこである。

『御神音楽学校─Mアカデミー学園』

「夢かも~~~あ! 急がないと!」

 ──『御神音楽学校』三年間で普通高等学校同等の卒業資格が与えられる。留年制度はなく単位不備の者は即退学となる。「声楽コース、弦楽器または管楽器コース」の二種のうち選択受験。

 音楽学校を卒業した者で成績優秀者はMアカデミーへの進学を許可される。

 アカデミーの生徒は、プロデビューを目標とする者を対象に、御神財団より海外留学の斡旋や、資金などの援助を受けることが出来る。

 ──『弦楽器コース試験会場』

「桜井花音です。お願いします」

「42番ね。この札を胸につけて控え室で待つように」

「不吉な番号ね……にしても。今日で二日目よねえ。何人応募してるんだろう……5人一緒に弾くのね……」

 次々と受験者が呼ばれていく。思っていたより進むのが随分と早い。5人一緒でも短めしか弾かないってことかしら?

 もう直ぐ順番だわ。

 緊張の為かハンカチで何度も手汗を拭く。

 あと8人? え? あれ? 順番抜かされた?

 あ、同じ曲を選択している人でグループを組まされているからね。

 同時演奏ってことは、一緒に弾く人と合わせる感じが良いのかしら?

 ──ザワザワ

「え?」

「え? 何で?」

「嘘? 本物?」

「何で日本に?」

「え? 御神 貴志?」

 私は、思わず声がする方向に振り向く。

 嘘!? 御神様!!

 え!?

 えええッ?

 本物?!

 歩いている! 動いている!

 本物だ!

 私、息してる? 生きてる?

 サングラスをしていても、何度も夢にまで見た御姿を、私が見間違えることはない。

 紛れもなく「御神 貴志」本人である。

 彼の身長、体重、足のサイズに至るまで(公表プロフィールではあるが)知り尽くしている。間違いなく彼である。

 周りのザワつきに一切気にかけることはなく、サングラスをしたまま颯爽と歩き去って行かれた神は、無言で「試験会場」へ入って行った。

 え?

 嘘?

 御神様の前で弾けるの??

 御神様が聴いてくれるの?!

 今日で死んでも良いです!

 冥土の土産に宝物にします!

 ◇

「珍しいわね。貴方がわざわざこんな学生相手の試験を見に来るだなんて?」

「ん? 緊張で泣き出す瞬間が最高だろ?」

「相変わらずの悪趣味ね?」

「次が最後か? 何だよ。全員バッハか、ドヴォルザークかよ」

「そりゃそうでしょう。どれ選んでも同じ条件なのだから。あ、この次パガニーニ来るわよ?」

「物好きがいたものだ」

 サングラスを外すこともなく、長い脚を組み直し少し退屈そうにドアの方を見ていた。

 高級スーツや高級ワンピースに身を包み、母親や師と共に廊下で待っている「いつもの風景」に、飽き感が否めなかったからだ。

 受験者の紙がテーブルに三枚置かれているのに視線を移す。

「三人ねぇ」

「勇者に敬意を払ってあげて頂戴?」

「次のグループ入りなさい」

 ──「失礼します」

 その声と同時に番号順に部屋に入る。

 御神様の前でまさか、御神様のパガニーニを弾ける日が来るだなんて!

 生きてて良かった!!

 他二人が、緊張で強ばった表情をしている中、花音だけが高鳴る胸の鼓動で舞い上がっていた。

「では、はじめなさい」

 三人で顔を見合わせ、スタートのタイミングを合わせる。41番さんがカウントして入る段取りにした。

 出だしはちゃんと揃った! この調子で皆と合わせて! 

 だんだんと激しく低い地響きのような音に──

 って? え?

 ズレてる? 

 私だけ?

 え? テンポが狂っている?

 合わない! どうしよう!!

「ふぅん」

「貴志、あの子!」

 どうしよう! みんなに合わない!! 

 ──バンッ

 げ、弦が、き、切れた。こんな大事な場面で。

 落ち着け私、三弦でもカバーすれば……

「あら? 学生にしては度胸あるわねえ」

「持たないな最後まで。由紀、鍵」

「え?」

 まさか自分のを貸すつもり?

 ──ガタン

 あ、御神様が!!

 やっぱりこんな下手な演奏なんて聴くに堪えないと思ったのね。

 その時だった。

 ──バチン

 二本目が切れた。

 あんなに練習したのに……

 私の人生最初で最後の日が終わった──

 二人の綺麗な演奏を聴きながら、それでもこの場に来れたことに感謝して、私は審査をしてくれた先生方に頭を下げた。

 最後まで弾けなかったことは残念だけれど、御神様に会えただけでも冥土の土産になる!

 悔しい気持ちはあったが、最後まで演奏した二人に敬意を払い拍手を送る。

 彼女らの後を追うように、急いで崩壊したバイオリンを片付け、出口へと向かったその時だった。

 ──ガチャリ

「最初から、さらってみろ」

 え?

 御神様?

 え? これって御神様のバイオリン?

 指板にMのマークが入っている。

 嘘?

 しかもこれって物凄いお値段とかするやつですよねえ?

「練習用のだ。そこまで高価な物ではない」

「……お借りしても?」

 やったーーー!

 御神様のバイオリンを貸して頂ける上に、再テストしてくださるって!

 まさに神降臨!

「はじめろ」

 御神様が、サングラスを外された。

 ニコロ・パガニーニ作曲 無伴奏バイオリンのための24の奇想曲24番イ短調

 最も美しいパガニーニの最高傑作。

 ──ガタン

 え? 御神様? 

「そこビブラート効かせすぎ! テンポ乱れてる! 違う! 弓ゆっくり溜めろ早すぎだ阿保!」

 上着を脱ぎ捨て、彼女の直ぐ後ろに立ち指導し始めた。

 その部屋にいた全ての者がその光景に驚きを隠せなかったが、それ以上に彼女の演奏に驚愕し口を開けたままの者もいた。

 御神 貴志のパガニーニの世界が見えた瞬間だった。

 彼の独特な解釈。禁忌とも言える当時センセーショナルを起こした彼のデビュー作をそのまま再現していた。

 扇情的な旋律と激情が交互に繰り返され、泣き叫ぶような高音と、悪魔のような低音に部屋にいた皆は、酔いしれ圧倒されていた。

「スタッカートもっと細かくつけろ。もっと大事に音よく聴いて。そう歌えもっと」

 ──ジャーン

「ハァ。ハァ、ハァ。終わった。何これ! この悪魔みたいな低音と、高音の響き。音が全然違う……」

 何故だか分からないが私は、涙が溢れ出していた。

 震える手に力が入らず、でも大事なバイオリンを落とすことはできず、御神様にお返しするのに差し出す。

「有難うございました! 一生の思い出が出来ました!」

「お前さぁ。何処でバイオリン習った?」

「え? 独学です。あ! でもずっと御神様、あ、いえ、御神さんのCDを毎日子供の頃から聴いて、それで、えっと。バイト代貯めてやっと、先月末にアレを買いました!」

「……やっぱりな。由紀、高科呼んで来い。あとツィゴネルのスコアと」

 え? 御神様が、呆れていらっしゃる? 由紀さんて確か御神様のお姉さまよねえ? この学園の学長をされている。ピアニストの御神 由紀さんよねえ?

「お前、もしかして楽譜読めないのか?」

「……すいません」

 御神様? 

 あれ? 呆れた? お疲れのようで?

 額に手を当てたまま、微動だにしなくなった御神様を窺うように見つめた。

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